カウンセラーとしての傾聴

プロのカウンセラーとして話を聴くということは、話を聴くという行為によってクライエントにニーズが満たされなければなりません。
もし話を聞いたことによってニーズを満たす方法がカウンセリングではないということが分かった場合、必要な手段を提案することになります。
カウンセラーは、相談を受けたら悩みの解決という結果、または解決の手掛かりを提案できる傾聴力を備えておくことがプロとしての条件であると言えます。

では、カウンセラーとして話を聴くということについて、さらに深く説明を進めていきたいと思います。

誰かの相談を聴くことの難しさ

本来、誰かに話を聴いてもらうという事は、決して特別な事ではありません。
しかし、誰かに相談をしても、どこかしっくりこない、解決しそうにない、または反対に気分を害したり、余計に落ち込んでしまったという人は少なくないと思います。

それは、決して話を聴いている人が、いい加減に聴いていたり、適当なアドバイスをしているのではなくて、それだけ、話を聴くという事は難しい。

例えば、家族など身近な人ほど、相手に変わってほしいという気持ちが強かったり、自分のアドバイスを聴いて欲しいという思いがあって、相手の心の状態をよく確認せずに対応してしまいます。
また、誰もが自分の『常識』、『正しさ』を持っていて、それを通して相手の話を評価しているので、相談をして来た相手に、なぜか責められているような気分を感じさせてしまうことがあります。

カウンセラーの話の聴き方

人の話を聴き、心を受け止めるには、相手の世界観を大切にして、『無常識』で話を評価すること、自分の聴きたいことではなくて、相手が考えるべき事を考えられるような質問をすることが大切です。
また、相手にどうなって欲しいという期待も押さえて話を聴いた方が良いのです。

しかし、そうやって話を聴くためには、物事を深く考える力、さまざまな観点から話を分析できる専門的な知識、人の個性を見極める洞察力、言葉を選んで話す事が出来る力、が必要になります。
カウンセラーとは、話を聴くという行為の中に上記のような条件を満たしていることが求められる職業です。

カウンセリングというものの社会的役割は、心の病の人の話を聴き改善をサポートすることだけにとどまらず、人間関係、自分の性格や行動、仕事などで悩んでいる人、課題を感じている人が、自分のことについて正しく考える機会を提供し、現状を変えていくためのサポートだと認識しています。

カウンセラーを目指す方、カウンセラーとして活動を始めて間もない方は、話を聴くという誰にでもできる行為の中に、上記のような条件を満たして話を聴くことができているのかという視点を自分に向けてみて下さい。

カウンセリングで行動が変わり、人生が変わる

人の心や行動は、悩みを誰に話すかによって大きく変わります。
大切な話ほど、安心できる場所で安心できる相手に話す事が望ましく、カウンセラーはカウンセリングというものが、安心と安全が保障されていて、聴いてもらうことで得るものがある、悩みが解決の方向に向かっていると感じてもらえるように努力していかなければならないと思っております。

話を聴くという行為は、誰にでもできることですが、カウンセラーは話を聴くという行為を誰にでもできるわけではないレベルで行えるようになって、カウンセリングを受けて人生が変わったという人を増やしていくことが出来てこそプロだと思います。

カウンセリングの焦点

カウンセリングでは、ただ漠然と話を聴いていてもクライエントを援助することはできません。
クライエントに自由に話してもらいつつも、最終的にはクライエントの悩みの解決、心の成長につながる対話になることが大切です。

カウンセリングは、傾聴という技術を使って話を聴きます。
傾聴は、カウンセラー資格を取る上で学ぶことがありますが、カウンセリングの現場で上手く使える人は多くありません。

良い傾聴をするためには、いくつかの要素がありますが、何に焦点を当てながら、どんな情報を得たいかを自覚しながら話を聴くことが必要なのです。
この記事では、話を聴く際に焦点を当てるべきポイントについて説明しているので、下記の内容をよく読んで下さい。

悩みの質、深さ

クライエントの悩みがどのようなものか、その原因は何で、解決の糸口はどこにあるのかなどを考える必要があります。
カウンセラーは、クライエント自身が自覚している悩みについて話を聴きつつも、クライエントが自覚できていない悩みの本質や原因に焦点を当てることができなければなりません。
そのため、悩みの質と深さを意識して話を聴く必要があります。

悩みの質と深さは、クライエントが自覚して話してくれていることだけではなく、質問をしてこそ話してくれること、悩みと他の焦点との関連性が見えていく中で明確になっていくので、時には丁寧に、時には大胆に話をしていく必要があります。
悩みの質や深さの確認は、カウンセラーの傾聴能力が問われます。

悩みの背景

悩みの背景とは、クライエントが生きてきた環境、現在の生活環境などです。
どのような環境の中で、どのような出来事によって悩みが生じたのかを確認せず、表面的な相談内容だけを聴いてもカウンセリングは上手くいきません。

表面的な悩みが同じでも、その中身は一人ひとり違いがあります。
カウンセラーはその違いに関心を持てることが大切で、人によって大きく異なる部分がその人の生活環境や成育環境です。

性格の特徴

性格は、クライエントの生まれ持った性格、育った環境で形成された性格、日常の習慣や役割としての性格など、話を聴きながらクライエントの性格の全体像を掴むことが大切です。

カウンセラーなら、性格学の知識を持っていないようでは良いカウンセリングは出来ません。
性格とは何なのかを知っていれば、性格がカウンセリングにおいてとても重要であることはわかるはずです。

カウンセリングの目的

カウンセリングにおける目的は、大きく分けると2つあります。
1つは、クライエントがカウンセリングを受けるための目的です。
もう1つは、カウンセラーがクライエントの話を聴く中で、クライエントを導くべき方向としての目的です。
カウンセラーは、クライエントの目的を尊重しながらもプロとして見えている目的にも焦点を当ててカウンセリングが出来なければなりません。

クライエントの自我の強さ

クライエントの自我の強さは、カウンセリングでは重要な要素です。
自我の強さによって、カウンセラーはアプローチの方法、強さなどを工夫する必要があるからです。
同じような相談内容であっても、クライエントの自我の強さ次第では、話を聴く上で必要な対応、アドバイスと内容とタイミングなどが変わってきます。

クライエントに表れている症状

症状はカウンセリングの中で見落としてはいけないことの1つです。
どんな症状が、いつから、どの程度続いているのか。
症状が楽になったり、強くなることがあるのか。
症状の原因は何なのかなどを考えてカウンセリングをしなければ、本来は病院に行く必要のあるクライエントに通院することを勧めることができなかったり、カウンセリングの中でも適切な対応ができません。

クライエントの症状は、本人が自覚して話してくれるものもあれば、自覚はできていないけどクライエントの表情や話の中に表れているものもあるので、カウンセラーは、それに気づけるかどうかがカウンセリングを上手く勧めるためのカギです。
カウンセラーは、症状を把握するために医学知識も必要です。

傾聴 = カウンセリングではない

カウンセリングでは傾聴が大切だと言われますが、勘違いしてはいけない点は、傾聴はカウンセリングの中の手段であり、カウンセリングの目的はクライエントの援助をすることだということです。
そのためには話のどこに焦点を合わせるのかを意識した傾聴を行う必要があり、クライエントから大切な情報を話してもらうための態度や技術が求められるのです。

傾聴は、カウンセリングのすべてはありませんが、カウンセリングの中の技術の中で根幹になるものであることは確かです。
そのため、カウンセラーとして最初に向上を目指すべき技術であり、経験を積んでも向上を意識し続けるべき技術であると言えます。