脇見恐怖症は生まれ持った性質や過去のトラウマ等が重なって発症するため、簡単に改善できるものではありませんがカウンセリングで取り組みを続けることで少しずつ変化が生まれてきます。
この記事では、脇見恐怖症がどのようのものなのか、脇見恐怖症の心理的特徴やそこから派生する問題、克服のためのカウンセリングについて説明しています。

脇見恐怖症とは?

脇見恐怖症は自分が脇見をして他人に迷惑をかけてしまうことを過度に恐れる症状です。

他人を視界の端に入れただけで脇見しているような感覚になり、相手に迷惑をかけたのではないかと罪悪感に苛まれる。
相手も自分の脇見を嫌がっているように見えるし、悪口を言われるし…自分は脇見をしているに違いないと思っています。

別に脇見をしたいわけじゃないのにどうしても見てしまう。自分では止められない。
目が勝手に動いて脇見をしているのではないかと思う人も多いです。

視線恐怖症の一種

脇見恐怖症は対人恐怖症(社交不安障害)の視線恐怖症に分類される症状です。

視線恐怖症は以下の3つに分類され、併発しているケースが少なくありません。
脇見恐怖症は自己視線恐怖症に含まれます。

他者視線恐怖症

他人に「自分がどう見られているか」「どう思われるか」ばかり考えてしまう視線恐怖症です。

自己視線恐怖症

自分の視線が他人に不快な思いをさせていると思い、罪悪感に苛まれる視線恐怖症です。

正視恐怖症

人と向かい合って話すときに目を合わせることができなくなる、どこを見ていいかわからず困る視線恐怖症です。

脇見恐怖症の心理

脇見をする(もしくは脇見をしている感覚になる)のは周りを警戒しているからです。
脇見恐怖症の人は周りの細かい反応も逃さないほど神経を張り巡らせ、常にピリピリしています。
肩や首がガチガチに凝り固まってしまうほど緊張していて、周りが全員敵のような感覚だとおっしゃる方もいました。

脇見恐怖症の背景にある不安、恐怖

脇見恐怖症の背景には、自分がどうしていいかわからない不安、他人に拒絶されることへの恐怖があります。
過去の親子関係や学校での人間関係等で傷付いてきた経験から、自分を守るためにものすごく警戒心が強い状態になっているのです。
自分を作って相手に迎合してきたはずが、意図せず自分の視線で他人に迷惑をかけてしまう。

脇見をして他人に迷惑をかけてしまう自分はおかしい、ダメだと常に否定。
脇見の症状をなくすことで頭がいっぱいになり、どんどん執着を強めて悪化していくのです。

脇見恐怖症と怒り

そして、もっと深いところには怒りがあります。
脇見恐怖症で悩んでいる人の心の奥にある怒りは以下のようなものがあります。

  • 過去の親子関係やいじめ等で抱えた怒り
  • 理想とかけ離れた今の自分が許せない怒り
  • 脇見に反応する相手に対する怒り
  • 脇見をしてしまう自分に対する怒り

脇見によって相手が不快に思ったり、イライラしているように見えたりするのは、自分の中にある怒りが映し出されているから。
「自分自身が抱え込んでいる怒りに対して自分が怯える」という奇妙な状態になっているわけです。
他人が自分に対して攻撃してくると感じる度合いが大きい人ほど強い怒りを抱えています。

脇見恐怖症を悪化させる二次的な問題

「脇見をしてはいけない」という過剰な意識

脇見をしてはいけないと思うから近くに人がいてもはっきり見ることができません。
例えば、電車で隣に座ってきた人がどんな人か、誰しも多少なりは気になるでしょう。
にもかかわらず、確認ができないとなれば不安になるのは当然です。
「脇見をしてはいけない」と意識しすぎるがゆえ、確認できないことで不安が強まっています。

自己肯定感の低下

自分は脇見をして人に迷惑をかけ続けていると思うことでどんどん自分が嫌になっていきます。
自己否定の繰り返しで自己肯定感が下がり、自分に価値を感じることができなくなる。
ありのままの自分を知られたら嫌われるとしか思えず、常に頑張って他人に合わせた自分を作るようになります。
無理をし続けていることで限界を超えてしまい、視線のコントロールが利かない状態になっているのです。

周りの無理解

脇見恐怖症の感覚は経験していない人や知識のない人にはなかなか理解してもらえません。
家族や友人、医者やカウンセラーに話しても妄想であるかのように扱われることがほとんど。
「そんなこと気にしなければいい」と言われたりしますが、そうできるならそもそも悩んでいませんよね。
理解してもらえないことで抱え込み、人間不信を募らせ悪化していくのです。

脇見恐怖症に影響する生まれ持った性質

発達障害

ADHD(注意欠陥多動性障害)の性質を持っている人は、診断が下りないグレーゾーンを含め、二次障害として視界に入った人が気になりやすい傾向が見られます。

注意力が散漫になることで目の前の勉強や仕事に集中できず、視界に入る対象に意識が向いてしまう。
何かしら不安に思うこととつながり、思考が止まらなくなって脇見のことばかり考えだす。
人だけでなく気になった物に対してまで脇見の症状が出てしまう場合は、ADHD傾向が影響しているケースが多い印象です。

思ったことはすぐ口に出す、考えだしたら思考が止まらなくなる、勝ち負けにこだわる、感情的になりやすい、不安を感じやすい等があるようでしたら当てはまるかもしれません。

ADHDと診断されれば症状を緩和する薬を処方してもらえるため、脇見恐怖症の症状が緩和する可能性があります。

HSP

HSP(人一倍敏感な人)は人の気持ちに敏感なので、他人の些細な反応を拾ってしまいます。

他人が怒られている姿を見て居たたまれない気持ちになる等、共感性が高いことで他者からの影響を受けやすい。
影響を受ける対象、自分にダメージを与えてくる可能性がある対象としての他者に警戒心が強く出る。

相手の顔色をうかがってばかりで言いたいことが言えず、物に対しての脇見がないのであれば該当するかもしれません。
HSPも発達障害と同じく完全に当てはまる人、HSP傾向がある人と分かれます。

発達障害と違ってHSPは正式な診断名ではないため、病院に行って薬をもらって緩和するものではありません。
HSPの性質と上手く付き合っていく方法を身に付けることが必要です。

脇見恐怖症の克服とカウンセリング

脇見恐怖症を克服していくためにカウンセリングでは以下のような取り組みをおこないます。

視線に関する捉え方を修正する

四六時中自分の視線が他人に迷惑をかけていると思い続けてきたことで、自分の視線の影響を過大評価してしまっています。
他人を見ることを重大な迷惑行為だと認識しているため、何としてもやめなければという気持ちになっていますが、脇見恐怖症で悩んでいない人の視線に対する感覚は以下のようなものです。

  • 他人を視界の端に入れただけであれば相手は気付くことすら難しい
  • 実際に見ていたとして視線以外の迷惑行為と比べればたいしたことではない
  • 自分と同じくらい相手も視線のことを意識しているとは限らない
カウンセリングで視線に関する捉え方(認知)を修正する働きかけをおこない、自分の視線が他者に与える影響の小ささを客観的に見ることができていくにつれて症状は改善に向かいます。

感情を自覚して表現する

脇見恐怖症で悩んでいる人は自分の感情に鈍感です。
嫌なことを嫌だと感じられず、イライラすることがほとんどありません。
感情を強く抑圧しています。
感情を抑圧することで過度の緊張状態となっているため、感情を自覚して表現できるようになることが必要です。

カウンセリングでは、まず脇見恐怖症で日々感じている辛さ、苦しさについて話して下さい。
抱え込んでいた気持ちをカウンセラーに受け止めてもらう中で、自分の感情に気付き少しずつ言葉にすることができるようになっていきます。

脇見恐怖症のメカニズムを知る

心理的な問題〜過度の緊張状態による自律神経の乱れ、目線の向け方の問題、継続・悪化させる悪循環等、脇見恐怖症のメカニズムを知ることは大切です。
そのためにカウンセリングでは、現在の状態や生活習慣だけでなく過去の成育歴までしっかりお聴きしていきます。

脇見恐怖症はHSPや発達障害が影響している可能性もありますので、生まれ持った性質も思いつく範囲でお話しください。
今の自分の状態なら脇見をしてしまうのは当然だと思うことができれば、自分を過度に責めることがなくなって楽になります。

自分を大切にする感覚を養う

脇見をしてしまうことによる罪悪感で常に自分を責め、自分を苦しめる状態になっています。
自分を苦しめているからつらくて仕方がないのですが、それでも他人を苦しめている自分の視線を何とかしなければと思う。
自分の苦痛を無視してものすごく無理をしているわけです。

脇見恐怖症を克服するためにはまず自分を大切にしなければなりません。
自分を大切にすることによって苦痛から解放され、常に戦闘モードの状態ではなくなって穏やかな視線へと変わります。

「自分は自分、他人は他人」と境界線を引く

脇見恐怖症の人は自他の境界線が曖昧で他者と一体化したような感覚になっています。
「自分は自分、他人は他人」、自分と同じくらい相手も視線のことを気にしないだろうと頭ではわかっているものの、感覚レベルではわかっていない状態なのです。

カウンセリングで自分のことを話していく中で「自分」というものがハッキリしてくる。
他者の感覚について知識を得ながら過去を振り返ったり、日々人とかかわりを持ったりする中で境界線ができていく。

「自分はすごく気になるけど他の人はあまり気にしないんだな」といった感じで、自分と他人の線引きができればできるほど症状は緩和していきます。

脇見が気になりながらも動いていく

脇見恐怖症があったとしても自分がやりたいことをやっていくことが必要です。
脇見で他人に迷惑をかけることを気にしてばかりいると、何もできなくなっていきますからね。
カウンセリングを受けていただくことで「脇見が出るから」と消していた本音に気付いていきます。
そして、脇見が気になりながらでも少しずつ自分がやりたいことをやっていく。

いきなりハードルが高いことはできませんので、カウンセラーと相談しながら今の自分の状態に合ったことに取り組んでいきます。
継続していく中で脇見が気になる度合いは下がり、最終的に脇見恐怖症が改善するのです。