教師の性犯罪抑止への取り組みに対する懸念

弊社は、性犯罪加害者が再犯を犯さないためのカウンセリングを行っています。
カウンセリングには、さまざまな職業の方が来られていますが、どちら方というと公務員に比べて会社員の方が多いように感じます。
そして、公務員の中でも教職員で性犯罪をしてしまった人に関しては、カウンセリングを受けている人は少ないです。

ただ、教師が性犯罪加害者になっているというケースは決して少なくありません。
公務員が性犯罪を犯した場合はニュースに取り上げられることが多いのですが、そのニュースの量から考えるともう少し教師の来談が多くてもよさそうな気はしますが、来談者の中の教師の割合は低いのです。
これはあくまで弊社の中でのことなので、他のところに相談に行っておられる可能性もあるのですが、教師で性犯罪を犯した人の中でカウンセリングを受けることが少ない要因は、性犯罪によって仕事を失っていることが関係していると感じています。

私は、教師が性犯罪を犯した後の取り組みの傾向に懸念を持っています。

なぜ教師はカウンセリングを受ける人が少ないのか

実は、性犯罪を犯した後でも仕事を失っていない人はたくさんいます。
それが良いかどうかは別として、事実として会社員は逮捕された後も職場にその事実を知られないこともあるため、前科がついた後でも同じ仕事を続けているケースが多いのです。
そして、仕事が続けられることも再犯をしないようにカウンセリングを受けようというモチベーションにつながっているケースもあります。
また、職場の上司などに事件のことを知られた場合でも、職場に残ることができている人も多く、上司などからもカウンセリングを受けることを勧められている人もいます。

教師はカウンセリングを受けない理由

教師の場合は、事件を起こし後に多くの人が仕事を失っています。
仕事を失うと、この先の生活のためにどうすればいいのか考えなければならなくなり、カウンセリングを受けるという選択肢よりも再就職のために動くことが優先されているのではないかと思います。
生活のためには働くことは必要なので、再就職先を探すことは理解できるのですが、弊社には就職先が見つかってからカウンセリングを受けに来たという人はいません。

教師の場合、その職業だけを目指して大学で勉強して採用試験も苦労して通ったという人がいるので、自分の行いが原因とはいえ職業を失った職が大きく、再犯を抑止することや更生することに意識が向かないほど喪失感が強く、それが治まるまで時間が掛かっているのではないでしょうか。
そして、喪失感が弱まり始めたころには日常生活が動いていてカウンセリングを受けることの優先順位が低くなっているように思います。

同じ公務員でも、教師以外の職種の中で、そのまま同じ職場で働くことができている人は、カウンセリングを受けている人は多いです。
公務員の場合は、事件を起こした場合は職場に知られることが多いですが、処分の内容によっては職を失わずに済んでいる人もいて、職場からカウンセリングを受けることを求められることもカウンセリングを受けている人が多い理由です。

否認の心理が強い可能性もある

性犯罪者は否認の心理と言って、自分の問題点を認めない、不都合なことから目を背けるという心理的特徴が強いのですが、教師の中で性犯罪をしてしまう人は否認の心理も他の職業をしていた性犯罪加害者に比べて強いのではないかと感じます。

教師という仕事は、自分よりも年齢の若い子供たちと接するので、自分の正しさや有能さを意識しやすいところがあるではないかと思うのです。
教師をしている人の全てがそうだとは言えませんが、子供たちと比較することによって過度に自分は正しい、有能だと思ってしまうことがあるのではないでしょうか。
その感覚を持った状態で性犯罪加害者となった時、『自分は反省も後悔もしたから二度と同じことはしない』、『自分の意思で性犯罪は止められる』と考えてしまいやすいため、カウンセリングを受けることも避けてしまっているかもしれません。

学校は否認の心理が強くなりやすい環境

学校というのは、そもそも反証可能性が低い職場だと言えます。
反証可能性とは、自分の誤りに気付くことができる可能性のことです。

会社員や他の公務員なら、大人ばかりの環境で仕事をする場合が多く、経験の浅いうちは自分の仕事を上司にチェックされるため、間違いを指摘される機会も増えます。
そして、自分の間違いを認めて改善しなければ、周囲から信頼してもらえないので自分の誤りを認めて改善するという経験を積むことができます。

しかし学校は、児童や生徒が相手の場合に教師は自分の間違いを胡麻化しやすい、授業は自分と子供達の空間なので、自分の仕事をベテランの教師からチェックされて指摘を受けるという機会も少ないという点で、自分の誤りに気付く改善するという経験を積みにくい環境です。
そのため否認の心理が強くなりやすいのではないかと思うのです。

依存症の人は否認の心理が強く、性犯罪者も例外ではないので、否認の心理が修正されていないまま生活することは再犯のリスクが高いままであると言えます。
私が教師、元教師で性犯罪加害者となった人にしっかりとカウンセリングを受けて欲しいと思っている理由には、否認の心理から生じる再犯リスクがあるからです。
自分の人生のためにも、社会のためにも一度でも性犯罪を犯しているのなら、その異常性を認めて改善に取り組んで欲しいと思います。

再犯防止と人生の再構築のためのカウンセリング

教師をしていて性犯罪をしてしまった人でカウンセリングを受けている方もおられます。
その中には教師を辞めることになってしまった方もいれば、教師を続けることができている人もいますが、共通していることは再犯を防ぎたいという意識と自分の人生をしっかりと立て直したいという意識を持っておられることです。

私の感想としては、教師で性犯罪加害者になった方がカウンセリングを受けて入り割合は低いように感じますが、カウンセリングに来ている方の取り組み方は良い人が多く、再犯の抑止と同時に人生の再構築も進んでいるケースが多いように感じます。
根はまじめな人も多く、志を持って職に就いていたけど、その中で生じたストレスによって問題を起こしたという方も多いので、再犯をしないことと自暴自棄にならないことによって人生を良い方向に転換していく力を持っておられるのだと思います。

性犯罪は、本人のもともとの性格がどうであれ、脳が依存性に支配されてしまうと問題が再発してしまうという怖さがあるので、専門的なカウンセリングを受けて再犯の防止と人生の再構築を目指して欲しいと思います。